中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するため、
M&A支援機関に係る登録制度を開始いたしました。

登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果

本集計結果の概要

 本集計結果は、「M&A支援機関登録制度」に登録しているM&A支援機関(以下「登録&A支援機関」という。)から報告のあったM&A案件のデータを元に作成しています。

○報告対象案件
2022年4月1日~2023年3月31日に登録M&A支援機関がFA業務又は仲介業務を提供する契約を締結し、M&A最終契約に至った中小M&A(※)が対象。
(※)資本金1億円以下の法人又は個人事業主を当事者(譲渡側又は譲受側)とするM&A

○報告されたM&A件数
・2022年度(譲渡側:4,036件、譲受側:3,871件)

 なお、同一案件に関する譲渡側・譲受側からの報告による重複を排除するため、PBRによる分析、PERによる分析については、譲渡側について報告があった案件のみを集計しています。また、報酬率の分布についても譲渡側案件のみを集計しています。

 また、譲渡価額や財務データ等については、「事業承継・引継ぎ補助金」の交付案件については必須で報告を求めていますが、交付案件でない案件については任意で報告を求めています。このため、サンプル数は各指標ごとに変動しています。

活用シーン

 M&Aを検討している中小企業、支援機関の皆様に、譲渡価額やM&A支援機関(主にフィナンシャル・アドバイザー(FA)又はM&A仲介の業務を提供する者)に対する報酬等を検討する上での参考としてご活用いただくことを想定しています。例えば、以下のような活用ケースを想定しています。

・自社の引継ぎ・譲り渡しを検討されている中小企業の方が、譲渡価額を検討するに当たり、業種や純資産規模等に応じた譲渡価額の集計結果を参考とする。

・自社の引継ぎ・譲り渡しを検討されている中小企業の方が、M&A支援機関に支払う手数料の水準について把握するために、純資産規模等に応じたM&A支援機関への報酬の集計結果を参考とする。

●活用に当たっての留意点

 「本集計結果の概要」に記載のとおり、本集計結果は、登録M&A支援機関から実績報告のあったM&A案件を対象として集計し、作成されていることから、全てのM&Aの案件を網羅しておらず、任意で報告を求めているデータも存在する関係で、サンプル数には制約がございます。また、相当程度ばらつきのあるデータに基づいていること、元となるデータが必ずしも統一されていない場合がある(時価/簿価等)こと等に、ご留意ください。

 特に譲渡価額については、そもそも企業価値算定方法には様々な考え方があり、具体的な案件に応じて様々な事情・要素を考慮して決定されるものであること等を踏まえ、本集計結果における譲渡価額は、あくまで参考として活用してください。

 M&A支援機関に対する報酬についても同様です。本集計結果におけるM&A支援機関への報酬は、あくまで参考として活用してください。

譲渡価額

 中小M&Aでは、(1)簿価純資産法、(2)時価純資産法、(3)類似会社比較法(マルチプル法)、といったバリュエーションの手法により算定した株式価値・事業価値を基に譲渡額を交渉するケースが多いが、事例ごとに適切な方法は異なるため、相談先の支援機関に相談の上、事例に即した適切な方法を選択することが望ましい。

​ また、算出された金額が、必ずそのまま譲渡額となるわけではなく、交渉等の結果、(1)又は(2)で算出された金額に数年分の任意の利益(税引後利益又は経常利益等)を加算する場合等もあり、当事者同士が最終的に合意した金額が譲渡額となる。

(1)簿価純資産法

 貸借対照表の純資産が株式価値となる手法。譲り渡し側経営者をはじめとする関係者にとってイメージがしやすく、コストをかけずに株式価値を算定できるメリットがある。他方、帳簿価額(簿価)と時価が大幅に乖離している場合や簿外資産・負債がある場合等は、本来の株式価値を表していないこともある。

1.簿価純資産の算出

2.株式価値の算出

(2)時価純資産法(修正簿価純資産法)

 貸借対照表の資産・負債を時価評価(例えば、棚卸資産の場合、実在性や評価の妥当性等を検証して、時価評価を行う)し、また、貸借対照表に計上されていない簿外資産・負債(例えば、保険の解約返戻金や退職給付債務等)も時価評価して算定した純資産を株式価値とする手法。

 譲り受け側にとって対象企業(譲り渡し側)の実態を把握するためには有効な手法である一方、時価の算定等にコストや時間を要するケースがある。このため、中小 M&A においては、資産・負債の全てを時価評価するのではなく、株式価値の評価への影響が大きく、比較的時価が把握しやすい不動産や有価証券といった一部の資産・負債のみ時価評価する「修正簿価純資産法」を用いるケースも多い。

1.時価純資産の算出

2.株式価値の算出

<参考>時価純資産法又は簿価純資産法に数年分の利益を加算する場合

 時価純資産法又は簿価純資産法により算定した純資産に、数年分の任意の利益を加算した金額を譲渡額とする場合もある。なお、加算対象とする利益の種類(税引後利益又は経常利益等)及び年数(通常1年~3年)は事例ごとに異なり、交渉によって決まるケースが多い。

1.時価純資産の算出

2.加算する利益の計算

3.譲渡額の算出

(3)類似会社比較法(マルチプル法)

 対象会社(譲り渡し側)に類似した上場会社の企業価値(EV)及び財務指標から算定した評価倍率(EV/財務指標)を基に、対象会社の株式価値を算定する手法。評価倍率を算定するための財務指標としてはEBIT、EBITDA、PER等があるが、中小M&Aにおいては、EBITDAを用いた手法(EV/EBITDA 倍率法)が多く用いられる。

 EV/EBITDA 倍率法とは、譲渡額をEBITDA(簡易的に「営業利益+減価償却費」で算定をするケースが多い。)の何年分で回収できるのかを、類似上場会社から算出し、対象会社の株式価値を算定する手法であり、具体的には以下の算式で算出する。

○株式価値 = EBITDA×EV/EBITDA 倍率-純有利子負債(有利子負債-現預金)

※中小企業は上場会社と比し、株式の流動性が低い点を考慮し、30%程度ディスカウント(非流動性ディスカウント)するケースもある。

 なお、EV/EBITDA 倍率法は、上場会社に比準して、株式価値を算定することから比較的客観性の高い手法であるが、選定する上場会社等が適切か否かは注意する必要がある。

1.類似上場会社のEV/EBITDA倍率の算定

2.対象会社の株式価値の算定

株式譲渡の譲渡側案件の譲渡価額の水準について分析。
なお、譲渡価額の水準を分析する指標として、実績報告において報告された財務指標を用いて分析が可能な「PBR」を用いた。

解説 PBR(株価純資産倍率):Price Book-value Ratio

PBR(株価純資産倍率):Price Book-value Ratio
PBRは、株式譲渡価額が純資産の何倍と評価されているかをみる指標。
資産と負債の差額である純資産は、資産を全て売却して負債を返済した後に手元に残る金額。
すなわち会社の解散価値を表すことから、会社の解散価値を判断する目安として利用されることがある。
\[ PBR(倍) = \frac{株式譲渡価額}{純資産} = \frac{株価}{1株当たり純資産} \] ※報告された純資産は帳簿価額上の純資産が記載されているものとDDによって時価を反映して記載されているものが混在する点は留意。
支援機関がDDの内容を把握している割合は全体の70%程度との報告結果を得ている。

集計方法の選択
表示する年度

データの分布 単位:倍
第一四分位 中央値 第三四分位
全体(519件) 0.9 1.3 2.5
建設業(91件) 0.9 1.2 1.7
製造業(105件) 0.7 1.1 1.5
情報通信業(38件) 1.3 2.5 5.4
運輸業、郵便業(25件) 1.0 1.5 2.3
卸売業、小売業(63件) 0.7 1.0 1.6
不動産業、物品賃貸業(23件) 2.0 2.3 4.4
医療、福祉(36件) 1.0 1.9 3.3
サービス業(他に分類されないもの)(61件) 1.1 1.8 3.1

※()の数はサンプル数
※サンプル数20件以上の業種のみ表示

解説

PBRが算出可能な519件の全体の分布状況をみると、第1四分位0.9倍~第3四分位2.5倍に分布し、中央値は1.3倍となっている。
20以上のサンプル数がとれる8業種について分布状況をみると、中央値は概ね1倍台となっているが、情報通信業や不動産業・物品賃貸業のように中央値が2倍を超える業種もみられる。